「板か板わく」か              フレーム表示の適正化

卒業論文 「幕屋の構造」 の研究より

        森脇章夫   1978年度 神学専攻科 卒業生

   聖書は幕屋について多くの紙数を費やしています。出エジプト記では40章の内1/4を超える12章がこの記録に当てられています。またレビ記全体も、幕屋で行われる祭儀に関する記録が記されています。民数記1〜12章も幕屋と深い関係があり、新約 聖書にもキリストとの関係で幕屋の事が記されています。

   ところが今日、多くの批評学者は幕屋の実在を否定しようとしています。そこで私は聖書に記されている幕屋の構造を、そこに記されている材料を用いて建築した場合にどのようになるだろうかということを、材料、技術、重量 、その他の面から実証してみようと思い立ちました。その結果いくつかの意外な (当然な?) ことが分かって来ました。

   たとえば、幕屋に使用された金の総量をかぶせられた面積に割り振りました。なんとそれは60μの薄い金箔になるではありませんか。しかもそれは当時のエジプトの技術では十分可能であったのです。

  また契約の箱の重さは、どう見積もっても500sはくだらない重量物となります。これを担ぐには少なくとも12人の祭司が必要です。そしてそれはヨシュア記3章12節と全く符合するのです!

  ここでは紙数の関係で特に幕屋を形づくっている板について、貧しい研究の結果をご紹介します。

  幕屋の壁の部分はアカシヤ材で作られており、移動が可能な様に組立式になっています。

  さて、これが 「板」か 「板わく」か については、長い間にわたる学者の議論が有りました。口語訳はヘブル語 「ケレシュ」 を「枠」と訳し、文語訳、新改訳は「板」と訳しています。ちょっと考えるとどうでも良いことにも思えますが、いざ幕屋を復元して見ようとすると、板か枠かでは大変大きな相違がある事がわかります。

  まず材料のアカシャ材について考えてみますと、この木はシナイの荒野に特有の木で、パレスチナでは死海の南部に僅かに見られるだけです。樹高は4〜7米、幹の太さ約30p、材質は堅牢そのもので、比重は死海の水よりも重く、ここでは1.2 (参照リンク) と考えました。

  さてこれを板として考えると、どの位の重さになるでしょうか。

・厚さ1キュビト説 (ラッシ)これを次のような式で計算してみます。すなわち、重さは体積×比重ですから、45×(45×10)×(45+45÷2)×1.2=1640250g 一枚の板の重さは約1.64トンで、総重量は約79トンとなり途方もない重量になります。

・4分の1キュビト説(ガグラディ)。この場合は、隅の板には斜めに切断され、かぎ形に張り合わされたものとする為、聖所の外形は横が10.5キュビト、長さ30.75キュビトになり、その重量は、一枚が410s、全体で約20トンになります。

・6分の1キュビト説(ペイン)この場合は、一枚の板が273s、全体では13トンとなり、だいぶ軽くはなります。しかし、民数記7章では幕屋全体を運ぶ車が4両しかないのですから、板だけで13トンは重すぎます。

・板枠説(ケネデイ)。この場合も厚さ6分の1キュビトで計算しますと、一個の板枠の重さは71s、48枚で3.4トンになります。

  しかし、実際にはこの他に、柱、横木、台座、庭柱と台座が加わります。これらの重さも、それぞれの寸法によって綿密に計算してみました。それによると、柱と横木が1.5トン、台座3.4トン、庭柱と台座が770sで、全部を合計すると約9トンになります。これらを運ぶのはメラリ族の役割になっおり、そのための車は4両と決まっていましたから(民数記4章31節、7章8節)、一両が運搬する重量は約2.25トンになり、現実的なものに近くなります。

   その他、装飾の面からも、板枠説が正しい事が分かってきます。幕屋は巧みにケルビムが織り込まれた幕で覆われていました。もしケレシュを板と訳すと、見事なケルビムは何処からも見ることができません。しかし、これを板枠とすれば、見事なケルビムが板枠の間に額にはまった絵の様に美しく浮きあがって見えたことでしょう。

   私は新改訳聖書を愛用し、生涯これを教会で用いたいと思っています。しかし、この部分については、以上述べた点からも改めるべきではないかと思っています。勿論足りない学びです。先輩の先生方には別の論理があると思います。足りない所は教えて頂きながら、なお、私達が用いている聖書を正しく解釈する為の学を続けて行きたく願っています。諸先生方のご指導を心から仰ぎたく願っています。


上記は東京キリスト教学園(1979年5月)に掲載されたものです。


以下に卒業論文の2年前に神学科3年次の旧約解釈学の課題レポートとしてクラスメート4名と共同で制作した幕屋の模型制作中の写真はこちらです。 追って卒業論文に掲載した幕屋の構造図面を掲載する予定です。